縫合の事をドイツ語でNaht(ナート)といいます。
今回は手術の際、メスで切ったら縫い合わせることは必要な糸について紹介します。

「溶ける糸で縫った!」
一般の人でも聞いたことがありますよね。
私が小学生の頃、友達が盲腸で手術した際に溶ける糸でお腹を縫ったという話を聞いてその不思議さに印象深く頭に残っています。
その後、テレビなどでも溶ける糸の話は聞いていたので看護師なってからも「この糸が溶ける糸か〜」と実物をみて思いました。

縫合糸の種類は大きく3つに分類

・吸収性対非吸収性
・編組対非編組
・天然対合成

吸収性か?非吸収性か?

吸収糸

吸収糸は、種類により多少違いはあるが、一般的に張力が強く、組織内での張力の持続期間も数週間と長く、3ヶ月から半年くらいかけてゆっくりと吸収されます。しっかりと確実に縫合でき、組織反応も少ないため、合成吸収糸が使用されることが多いです。

吸収性の糸が溶ける糸と呼ばれる糸です。
実は医療用の糸の歴史は古く、紀元前からはじまっており、1000年以上の歴史があるのです。溶ける糸はカットグリットとよばれる10世紀代には使われていました。しかし、人間の体内からしてみれば異物ですので炎症がおこるというデメリットがあります。だいたい、4〜8週間で吸収されます。溶ける糸といわれていますがその日数以上に残存するケースがあります。

モノクリルとバイクリルとPDSⅡの違い


3つとも吸収性です。
吸収糸のため、中抜いで使用され粘膜や皮下組織、筋層等を縫合するときに使用します。

モノクリル(Monocryl)

埋没直後は強い抗張力を保持し、短期間で生体内抗張力を失うのが特長です。また、モノフィラメントでありながらしなやかで確実な結節ができます。
・モノクリルは、編まれてないモノフィラメントで、着色と無着色があります。
・7〜14日の半減期を有し、2週間で約30〜40%の破壊強度を保持
・約100日で完全に吸収されます。

バイクリル(Vicryl)

・バイクリル(Vicryl)は広く使用されているモノクリルの代替品であり、編みモノクリルとは違う点です。編み糸は、丈夫で結び目も強く結べますが、理論的には感染傾向があり異物反応を引き起こすことが稀にあります。

・3つの中でも特に短期間で生体内抗張力を失います。
・2週間で約75%、3週間で約50%、4週間で約25%の破壊強度を保持
・約56日〜70日で完全に吸収されます。

PDSⅡ(ピーD


・PDSⅡは、ポリジオキサノン縫合糸で、編まれてないモノフィラメントの吸収糸です。
・2週間で約80%、4週間で約70%、5週間で約60%の破壊強度を保持
・約200日(6〜7ヶ月)で完全に吸収されます。

非吸収糸

溶けない糸=非吸収糸は「絹糸(けんし)」や「ナイロン糸」などです。絹糸はシルクから出来た天然素材なので、異種蛋白なので比較的強い異物反応しやすいです。ですがナイロンやポリプロピレン、ステンレスなどの合成非吸収糸はほぼ異物反応はないといわれています。

体内に溶けない糸は、体内に残存続けます。皮膚表面は傷口をきれいにするためにも丈夫で抜糸して完全に糸を皮膚表面から除去できる糸を使うことが多いです。
他にも、できるだけしっかり縫合したい場合は溶けない非吸収性の糸を使います。

非吸収性の縫合糸の例

ナイロン(Ethilon)、シルク、プロレンなど

非吸収性に糸の用途

長期間でも組織近いものにできます。
皮膚表面にも使用することができ、後で抜糸されます。その他には身体の内部で使用されて保持されます。非吸収性縫合糸の一般的な用途は、血管修復および吻合、腸修復、腱修復および皮膚閉鎖にも使われてます。

ナイロンとプローレン


ナイロン(Ethilon)およびプローレンは、低い組織反応性で良好な張力で非吸収性モノフィラメントで感染もおきにくいためよく使用されます。プローレンは、血管の吻合、腹壁の閉鎖、帝王切開でも使用されます。また視認性をよくするために、青く染められます。

外縫いは4-0ナイロン糸

外縫いとは皮膚の外側を縫うことで、主に青ナイロン糸が使われます。ナイロン糸は絹糸などに比べると組織反応が少なくキズが綺麗になりやすいという利点があります。また、糸は必要とされる張力を保てる最低限の太さの4-0ナイロンを使われることが多いです。

天然か?合成か?

・現在は合成のものがほとんどです。
・今でも天然でよく使われるのは絹だけです。
・天然のものは、もともと糸は異物であるため炎症がおきやすいです。
多くの縫合糸は合成です。
・昔から使われている材料は絹カットグットの2つは今でも使われてます。
絹糸は主としてドレーン固定や、結紮などによく使われてます。
・日本とヨーロッパではBSE懸念からカットグットの使用は禁止になってます。(*カットガットは2000年12月以降発売中止)

糸の太さも用途で使い分ける


大きな数字ほど細く、小さい数字ほど太いです。
つまり、1-0で0.35mm-0.399mmは太いです。さらに一番太いのは10で1.200mm-1.299mmです。
7-0は髪の毛の太さで0.050mm-0.069mmです。さらに一番細い糸は12-0で0.001mm-0.009mmまであります。
*サイズは、UPS規格です。

3-0と4-0の違い?

細くなるにつれて当然張力もなくなります。
そのため、皮下組織や筋層は基本的に3-0で閉創することが多いです。より細い4-0は硬膜等の細かな部分で使用します。

編み(ブレード)か?非編み(モノフィラメント)か?

編み(ブレード)

・細い繊維が何本も束になって1本の糸となってできています。
編んである糸はやはり丈夫
・よく使われるバイクリルは溶ける糸ですが、これも編みです。
・ブレードはしっかりと縫合・結紮が出来るという利点がありますが、細菌による汚染が生じやすく、特に絹糸は術後の縫合糸膿瘍の主な原因となっています。
・絹糸は、1本1本のシルク繊維が非常に細く、その繊維どうしの間隔はちょうど、「細菌」は入り込めても「白血球」は入り込めないサイズになっています。つまり、この中に細菌が入り込んでしまうと、生体の白血球は細菌を捕まえて食べることが出来ず、細菌にとっては格好の隠れ場所になってしまうのです。従って、絹糸による縫合糸膿瘍は「糸」そのものを取り除くまで、半永久的に繰り返されることになります。

非編み(モノフィラメント)

モノフィラメントは、1本の糸で出来ています。つまりこの糸の中には「細菌が入り込む」スペースがありません。このため、細菌による汚染を起こす危険性が低く、汚染を伴う手術ではもちろんのこと、通常の手術でもできるだけモノフィラメントの縫合糸を使用することが推奨

近年の糸の常識

結紮には絹糸を使わない。合成吸収糸、非吸収糸どちらかを使用。
腹壁を縫合するときには、腹膜を拾うべきではない。腹筋の筋膜をしっかり縫う
皮下組織は吸収糸か非吸収糸で縫合する。できるだけブレードは使用しない

腹膜を縫合するとデメリット
・術後の傷に痛みを生じること
・腹膜炎の発生率が上昇すること、
・腹腔内臓器と腹壁の癒着が起こる確率が高いこと
・腹膜の再生は非常に早く縫合の必要がないこと、縫合することで腹膜に余計な損傷を与え、治癒を阻害していること
・閉腹の際には腹膜を拾わずに、腹筋の筋膜をきちんと縫合すること
・脂肪織をあまり「がっちり」深く縫合し過ぎると、脂肪の虚血性壊死を起こしたりすることがあります。皮下脂肪というよりも、真皮層をしっかり縫合すること

「糸」の使い方・目的

「縫合糸による汚染・感染を防ぐこと」
「縫合により不要な損傷を組織に与えないこと」
「縫合により組織の修復をできるだけ妨げないこと」
「生体内にできるだけ異物を残さないこと」

縫合糸の使用方法
・血管などの結紮には合成吸収糸、または非吸収性のモノフィラメントを使用する。
・絹糸は使用しない。
・お腹を縫う際は腹壁は合成吸収糸による連続縫合で、腹筋筋膜をしっかりと縫合する。