血管外漏出(extravasation;EV)とは?

EVの発現頻度は抗がん剤投与の0.1~6.5%というデータもあります。
抗がん剤の場合の血管外漏出直後は、他の薬剤と同様に無症状あるいは、軽い発赤・腫れ・痛みの皮膚症状が出現しますが、
数時間~数日後にその症状が増悪します。
さらに重症化すると瘢痕が残ったりケロイド化したりしてしまいます。
抗がん剤の種類によって組織傷害の程度は異なるため何の薬剤なのかということも知っておく必要もあります。
血管外漏出は、早期発見、早期対応が原則で、発生後1時間以内に対処することで、組織傷害の発生を最小限に食い止めることができるといわれている。

Nurse preparing intravenous drip

炎症の経過は?

初期症状がでる前に患者から何らかの異変を訴えがることがあるので患者の様子を一定の時間ごとに観察することもひつようです。抗がん剤は、医師が点滴することになっていますので看護師はその予防と発見、対処をしっかりマスターしましょう。

①注射部位およびその周辺の発赤、腫脹
②水疱形成・・・水ぶくれができる。
③硬結・・・しこりができる
④潰瘍・・・皮膚の表面が傷つき、少しえぐれたような感じ。ただれ。
⑤壊死・・・組織が死んでしまうこと。

抗がん剤が漏れている時の対処方法

①直ちに抗がん剤の注入を止める
②抗がん剤の種類を確認する
③すぐに留置針を抜かずに、薬液や血液(約5mL)吸引・除去
④注射針・ルートの抜去,患肢を拳上安静(挙上することで一点に抗がん剤が滞ることは避けて、炎症の悪化を最小限にするため)
⑤局所の処置
⑴ステロイド軟膏: リンデロンⓇ,デルG(デルモゾールG)
⑵局注後は冷湿布
*ステロイド外用剤の塗布と冷湿布の継続(20℃前後の冷罨法を漏出直後に行うことで、炎症反応が軽減します。
3 時間程度は継続して冷やしたほうが効果的ですが、30 分間でも効果がみられています。
20℃前後という温度は、患者が心地よいと感じる温度です。)
⑥漏出量が大量であれば、ステロイド剤の内服を併用

抗がん剤が漏れている時の対処方法の効果は?

確立された治療法がなく、予防することが最も重要となる。
一般的に、抗がん剤の血管外漏出した場合のマニュアルとしてステロイド剤の使用の決まりがあることも多いです。
しかし、マウスによる実験やデータなどではステロイド剤による対処により改善が見られることはすくなくむしろ悪化した場合もありました。

血管外漏出と他の反応に関するアセスメント

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(がん化学療法・バイオセラピー看護実践ガイドラインより引用)

抗がん剤の種類

アンスラサイクリン系抗がん剤
・デクスラゾキサン(サビーン®)の静脈内投与
・ステロイド軟膏塗布
壊死性抗がん剤
炎症性抗がん剤
・ステロイド軟膏塗布
・ステロイド剤(+麻酔剤)の局注
⾮炎症性抗がん剤
・ ステロイド軟膏塗布

抗がん剤(一般名)
起壊死性抗がん剤 ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、アムルビシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル
炎症性抗がん剤 シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、チオテパ、イホスファミド、アクラルビシン、カルボプラチン、ネダプラチン、イリノテカン、ラニムスチン、ニムスチン
起炎症性抗がん剤 L-アスパラキナーゼ、ブレオマイシン、シタラビン、メトトレキサート、ペプロマイシン、エノシタビン
(国立がん研究センターがん対策情報センター:がん情報サービスウェブサイトより抜粋)

起壊死性抗がん剤:少量の漏出でも強いダメージをもたらし、皮膚の水疱や潰瘍から壊死に至るおそれあり。治癒後にも瘢痕やケロイドが残るケースも。
炎症性抗がん剤:漏出部位に発赤や痛みが生じるものの、皮膚の潰瘍まで進展することはまれ。
起炎症性抗がん剤:漏出してもダメージはほとんどなし。そもそも皮下や筋肉への注射が可能なもの。

血管外漏出を予防するためのポイント

確立された治療法がなく、予防することが最も重要のため以下のポイントに気をつけましょう。
・血管外漏出の危険性を説明し、投与中に少しでも違和感があれば患者に知らせてもらい早期発見に努める。
・輸液が血管外漏出した場合のことも考慮し、事前に輸液の成分(配合剤も含む)、浸透圧等をチェックする。
・留置針を使用し固定部が観察出来る透明なテープ類を使用する。
・末梢ラインはなるべく太い静脈を使用する。手背部、手関節部、肘関節部、手首(特に利き手側)に穿刺することは、できるだけ避ける。
・ラインを確保したら、静脈血の逆流を確認すると同時に、生理食塩液や制吐薬などの混合調製された輸液を滴下し、漏出のないことを確認する。
・投与中はできるだけ患者に安静に努めてもらう。特に治療初回の場合、輸液ポンプや点滴スタンドを実際に示しながら移動時の注意点など指導する。
・滴下速度が低下している場合には血液の逆流の有無を確認する。
・穿刺部位およびその周囲、走行血管の色調の変化に注意する。
・投与が終了したら生理食塩液などでフラッシュを行い、注意して抜針する。
・点滴の穿刺・留置とルートの固定を確実に行うこと。
・看護師が穿刺や留置をすることはないが、医師の仕事をチェックすることも務める。
・体動によって固定が徐々に緩むこともあるから、固定の状況は頻回に確認する必要がある。

患者への指導

ナースコール

・患者が手が届く位置にナースコールをセットする。
・抗がん剤が血管外に漏れた時は痛みや腫脹、発赤を生じること、抗がん剤の
種類によっては血管外に少量でも漏れると強い障害が残る可能性があるこ
とを

事前に

説明する。
・起壊死性抗がん剤の投与時はできるだけ穿刺部位を動かさな
いよう指導する。(投与前にトイレなど済ませるように配慮る。)
・留置針穿刺部周囲が「チクチク痛い」「ヒリヒリする」「あつい感じ」「違和
感がある」など異常を感じたらすぐに看護師に知らせるように伝える。
・トイレなどの移動のたびに患者とともに点滴の漏れの有無を確認する。
・抗がん剤投与数日の間に発赤、腫脹、疼痛の症状が出現した場合は病院に連
絡するよう伝える。