エビデンスとしてなるには、実験など立証できてこそです。
その実験結果と根拠をみていきましょう。
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浣腸を行う体位について

しむす
立位前傾姿勢や中腰、左側臥位で浣腸が行われることをならったかもしれません。
しかし、立位前傾姿勢や中腰で起こった際の事故が何件か毎年でています。
立位前傾姿勢や中腰で行うと、患者の肛門部を看護者が観察することは困難で、カテーテル挿入の方向や長さの確認が不十分となる可能性があります。さらに立位のまま肛門管に添ってカテーテルを挿入した場合、ダグラス窩(女性の場合は、直腸子宮窩)に突き当り穿孔させる危険性も大きくなります。また立位では、肛門括約筋が非常に強く締まり、無理にカテーテルを挿入することにより、静脈の豊富な直腸内壁を傷つけやすくなります。従って、これらの危険性を多く秘めている立位や中腰姿勢は避けなければなりません。
未だに、立位や中腰で行うことが黙認されているかもしれませんが、直腸穿孔があるかもしれないというリスクを知ると実施するのは看護師ですから責任があります。つまり、裁判で訴えられるのは看護師です。
実際に裁判になった事例があります。裁判所は800 万円の死亡慰謝料の支払を命じています。平成17 年頃から平成19 年以降遅くとも平成21 年10 月当時には、看護師を含めた医療従事者にとって一般的に左側臥位で行うことが認識されていたということで注意義務違反の有無が問題になっていました。

カテーテルの挿入の長さについて

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画像:ケンエー

以前まではカテーテルの挿入の長さ「6~10 ㎝」が疑問視されるようになりました。
カテーテル挿入が 6~10cm を超えた場合は、カテーテルの先端がダグラス窩を直撃し穿孔を起こす危険が潜在しているといわれています。
6cm以下がよいのではないかという声があがってきています。
しかし、一般的に医療現場で使用されているディスポーザブルのレクタルチューブは約 16cmあり、挿入する長さよりもかなり長く作られています。
最近では、レクタルチューブ部分に過挿入防止目的でストッパーが付いているものものあります。

人の温度感覚で適温と判断した浣腸液は本当に適温に調節できているかどうか?

かんちょう

画像:イチジク浣腸

2006~2009 年にかけて被験者(看護学生)計 242 名を対象に検証しています。その結果、適温に調節できた被験者は 20%未満でした。実
際、41℃を目指して調節していたにもかかわらず 29℃に調節していた被験者や、同じ 41℃を目指して調節していたにもかかわらず 46℃に調節していた被験者もいて、この実験から人の温度感覚は曖昧であり個人差も大きく、グリセリン浣腸液を適温に調節するのは難しいことがわかりました。温度を高く調節しすぎて直腸粘膜損傷を招く危険性が潜在していました(田代 2008、武田ら 2011)。

浣腸液は温度計を用いて正確に測るわけではなく使用者の感覚で温めます。この実験では人の感覚には差があるということがわかります。そして、温めることにより浣腸液の温度が高くなってしまい患者の腸に損傷を招くというリスクが発生してしまうということがわかります。

グリセリン浣腸液の温度の違いにより腸粘膜にどのような刺激性があるのか?

動物を用いての実験
実験方法は、実験動物(ラット)の直腸平均温度 38℃を参考に、その直腸温より 5℃高い 43℃と、5℃低い 33℃のグリセリン浣腸液を実験動物の直腸に注入し、細径内視鏡システムを用いて直腸粘膜の変化について観察しました。その結果、43℃のグリセリン浣腸液を注入した場合は注入直後から血管がやや太く観察されしばらく持続しました。一方、33℃の場合は注入直後に直腸粘膜に赤みを帯びた像が観察されましたが、数秒後には徐々に消失する様子が確認できました。この実験から、直腸温より 5℃低い 33℃の方が直腸粘膜への刺激持続時間が短いことが明らかになりました。

つまり、直腸温より低温のグリセリン浣腸の方が、直腸の粘膜には低刺激だったということがわかります。また、高温では、直腸の粘膜には刺激が強いということがわかったデータになります。
なので、温めずに浣腸液を使用することが患者にとってもよいです。

また、浣腸液の仕様書などでは温めて使うようにかいてあるものはありますが、日々医療はかわっていきますのでそれに対応できてないかもしれません。
実際に、適温といわれていた 40~42℃が適温であるかのデータや研究はありません。

グリセリン注入後に、患者に排便を我慢させることで効果が上がるの?

A.看護学のテキストには、グリセリン注入後 3 分程度浣腸液を貯留させた後に排便するように記載されています。しかし臨床の場では、特に高齢者において我慢することが困難でベッド上で失禁するケースが多いことからトイレで実施することも少なからずあるのが現状です。このような状況下でグ
リセリン浣腸を実施したために有害事象(直腸穿孔)が報告され、2006 年に日本看護協会からグリセリン浣腸に関する緊急安全性情報が通達されました。グリセリン浣腸後に排便を我慢する目的として、

①浣腸液が腸壁を刺激して蠕動運動を促進させるため、②浣腸液による便の軟化のため、と看護のテキストには記載されていますが(石井ら 2002,吉田ら 2005,深井ら 2006)、裏づけとなるデータは得れていません。
そこで、これらの作用に関する実証データを得るための基礎研究を実施しました(武田ら 2010)。本
研究では、実験動物として浣腸液の薬効評価研究として利用されているウサギを使用し(鶴見ら 1997)、
二つの実験を行いました。

実験Ⅰでは、グリセリン浣腸後の排便時間の検討を3匹の動物を用いて実施しました。

その結果、グリセリン浣腸後の排便までに要した平均時間は約 40 秒で、その後は断続的に排便作用が持続しました。鶴見(1997)の実験においても、グリセリンの作用は即効性で投与後直ちに排便が認められたと報告されています。このようなことから、グリセリン浣腸後に我慢を強要することにより患者は不快な強い便意で苦しむ場合があることを理解する必要があります。

次に実験Ⅱとして、グリセリン浣腸液による便の軟化作用について検討しました。実験にはウサギの排泄直後の便を使用し、グリセリン浣腸液への便の浸漬前後の重量を測定しました(武田ら 2010)。

その結果、浸漬時間 1~3 分ではその重量に差は認められませんでしたが、浸漬時間 10 分では重量は軽度増加しました。看護テキストに記載されている軟化作用を臨床の場で正確に評価することは困難であることより、実験動物の便を使用して簡便な方法で検討しましたので実際の状況とは乖離してい
る可能性は否定できません。しかし本実験条件では、我慢を強いている 3 分度では便は軟化しないことが示されました。グリセリン浣腸実施後は、直ちに排便作用が認められることから、我慢させることの上記理由はいずれも根拠が明確ではないと考えられます。我慢を強要することは患者にとって苦痛であることを理解し、いつでも排泄できる環境で実施する必要があります。

日本看護技術学会学術より一部引用させていただきました。